演劇講座 第10回「演出の仕事

 いやー久々です、もうこのコンテンツの事なんか誰も覚えてないんじゃないかと不安になっちゃいます。いまさら更新してどなたか読んでくれるんでしょうかね〜。実は「演出っていったいどんな事したらいいんでしょう?」てな質問をもらいまして、今回は張り切ってこれに答えてみたいと思います。

 まずズバリ“演出”ってどんな事をいうんでしょう。

 例えば学校や会社の朝礼など、普通はほとんど演出と言う事を考えていないと思いますが、これに演出が加わるとどういった事になるんでしょうか。

 まず、学生や社員など出席者が全員そろったところで突然会場が暗転になります。と、同時に舞台上にスポットライトがあたります。いかにも荘厳な音楽が大音響で流れ出すと、舞台下から学校や会社の旗かシンボルマークがスポットライトの中へせりあがってきます。
 マークがあがりきるとマークが真っ二つに裂け炭酸ガス(ブシューッと噴出す真っ白い煙のような奴)が上下から噴出し、同時に音楽は校歌か社歌に変わりその裂け目から校長先生か社長が登場し、校歌か社歌をBGMにおもむろにワイヤレスマイクで今朝の訓示をシャウトする。

 こんなところでしょうかね。結婚式やオリンピックの開会式なんかもここ数年(ロサンジェルスオリンピック以来でしょうかね)どんどん派手になってるようですし、いろんな事を考えて、盛り上げてやればいかにも“演出”されてるように見えます。

 じゃ、演出ってのはいろんな事考えて盛り上げてやればいいって事なんでしょうか?

 次に茶道の話。もっとも私は茶道の先生じゃありませんから詳しい事はわかりませんがこれも演出がスゴイらしいですね。
 じゃ、茶道で暗転したり大音響のBGMがなったりスモークや炭酸ガスが噴出するかって言うと、こんなもの何にもありません。茶室に入る客は80cm四方程度の小さな入り口から入り、入った茶室はたった2畳の狭い空間。茶室の主人(正式にはなんて言うんでしょう)は客と向き合ったり背中を向けてたり、で、床には花やら掛け軸やらが飾ってある。このさりげないところが強烈に“演出”されてるわけですね。

 これで世界や人生を表現するってんですからこの“演出”も立派に“演出”ですし、日本庭園などの枯れ山水やもちろんヨーロッパの庭園もそうですね。建築なども入りやすいようにとか権威を感じさせるようになど色々“演出”されてるようです。

 ということは、“演出”ってのはいろんな事を考えて盛り上げりゃいいって物でも、わかりやすきゃいいって物でもなさそうです。色々“演出”されているものについて考えてみると、どうもこれらの強力な“演出”感は作り手側が体験者に何を感じてほしいのかの意思が明確に働いているように思われます。
 しかし“演出”が目に付きすぎると疲れたり嫌味になってしまいます。すると逆の“演出”されている事を意識させない“演出”もありそうです。

 なんとなく“演出”ってのがわかってきました。“演出”ってのは作り手が体験者に向って、何がしかの意思を持って作り上げる、例えば自宅に帰って何も考えずテーブルの上にヒョイと置いた鍵束などは演出されていませんが、他人からは無造作に置いたように見えるように意識して配置されたテーブルの上の鍵束は、たとえ無造作に置いたものと同じであっても、“演出”されていると言う事ではないでしょうか。  自宅の部屋を絵や写真で飾ったり玄関マットをどんな模様にするかってものも、第三者(お客さん、時によっては自分自身の事もあるかも)の目を意識した途端に“演出”と呼べそうです。

 じゃ、演劇で演出ってのは具体的にどんな事するの?てなところもなんとなく判ってきたんじゃないでしょうか。

 てな訳で、『演劇で演出家は何するの?』という核心部分は明日のココロだっ。

(2002年10月26日)

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